製本用接着剤について(1)

 本の素材は紙や革、あるいは様々な接着剤にしろ、そのほとんどが天然または合成の高分子で、その構造や加工の原理などは完全には分かっていませんし、またそれらの劣化のプロセスも詳しく解明されたとはいえず、各分野外の人間が取り組むのは大変難しいことです。個人的な段階ではこうした接着剤の開発はもちろん、市販品の試験、分析も容易なことではありません。しかし、与えられた条件の中で、出来る限り良いものを選んで使っていくことは、製本を手がけるものにとって必要な心構えだと思います。

 製本に用いられる一般的な接着剤としては、糊と呼ばれているデンプン系のもの、ボンドと通称される酢ビエマルジョン(PVAc)を成分とするもの、膠、また工業的製本に使われるEVA(エチレン酢酸ビニル共重合樹脂)やPVA(ポリビニルアルコール)等を主体としたホットメルト接着剤などがあります。それらは特性に従って製本の形式により、あるいは各工程で使い分けられていますが、実際に製本用接着剤に必要とされる条件はどのようなものかといえば、
①十分な接着力がある。
②経時による製品劣化や接着力の低下がない。
③扱いが簡便でかつ安全なもの。
④可逆性のあるもの。
⑤被着物への悪影響がない。
等が挙げられます。

 この中で①~③は接着剤一般に要求されることですが、④・⑤は保存修復のための製本に特に必要な条件です。④は必要があれば接着したものをできるだけ傷めずに元の状態に戻せるということです。⑤は本の素材を劣化させたり、劣化を促進したりする恐れがないということで、接着剤を選ぶ上で最も難しく重要な条件となります。

 製本の工程で最も良く使われる糊についてみても、正麩糊のように、自分で純粋なものを作って使う場合はともかく、市販品の中には○○ノリとなっていてもデンプン系のものではなかったり、デンプンを原料としていても様々な添加剤が含まれていたりします。それらの添加剤が、紙や革へ何らかの影響を与えないとは言い切れません。従って現在ある接着剤の成分、特性について知ることは、製本のためのそれを選び出すのに不可欠なことです。また天然素材のもの、例えば膠などでもその原料は様々ですが、製本用にはどのようなものが良いのでしょうか?あるいは合成物質の中には製本に適した素材はないのでしょうか?
初出『コデックス通信第3号』弊社代表の投稿論文