【作品の概要】
[作者名]:Fr. Janet(彫版)、Séb. Leroy(画)、Vafflard(原画)
[作品名]:Le Chien de L’hospice
[種 類]:銅版画/紙
[制作年]:19世紀前半?
[寸 法]:(単位mm)
・紙:左辺183 右辺184 上辺131 下辺134
・図像:左辺134 右辺134 上辺91 下辺91

【作品の組成】
①支持体…厚い洋紙(0.27-0.3mm)が使用されている。網目漉き紙で、表面は凹凸があまりない。少しバルキーで吸水性は高い。裏面に水色のスタンプが押印される。
②画像…油性黒インクを使用し、エッチング技法により制作されている。インクは水・アルコールに対し、不溶である。

【作品の状態】
①危険度…支持体全体は良好であるが、全体、特にマージン・左から下部に向かって斑点状の茶色い染み(フォクシング)が多く発生している。裏面のほうが全体に広がっており、色も濃い。今後さらなる染みの濃褐色化の危険性がある。
②損傷・劣化状態…支持体の表面、裏面ともに全体的に埃でうすく汚れている。画面左下に裏面から小さな粒状のものが押し当てられたためにできたと思われる痕跡(凹凸)が点々とある。紙全体が茶変していて、「危険度」でも述べたように大小様々な大きさのフォクシングが多数見られる。また、右辺マージンなどにはいくつか白く抜けた染みも見られる。pHは5.0であった。

【処置方針】
 本紙全体の茶変・染みにより作品の美観が損なわれているため、本紙が傷まない程度に漂白を行い茶変・染みの軽減を図るとともに、今後の茶変や染みの濃褐色化の進行を防ぐ。

【主な処置内容】
① 素材および作品の状態を調査し、処置前の写真撮影を行った。
②ケミカルスポンジや練りゴムでドライクリーニングを行ない、表面上の埃を除去した。
③アンモニア水(pH8.5)にて浸漬洗浄を行い、水溶性の紙中の汚れや酸性物質を洗い流した。

④アンモニア水に反応を促進させるための過酸化水素を滴下した中に作品を浸漬し、光漂白による全体漂白を行った。さらに染みの濃い箇所に対しては、過酸化水素3%溶液による部分漂白を行った。
⑤過酸化水素3%溶液を全体にスプレーし、その後浸漬洗浄にてすすぎを十分に行った。

⑥炭酸水素マグネシウム水にて全体の脱酸・アルカリ化を行った(pH8.0)
⑦紙の補強および将来的に大気汚染物質などを吸着しにくくするため、メチルセルロース1.5%でリサイジング行った。
⑧紙全体のフラットニング後、今後の保存のためにマッティングを行った。

【処置前後の状態】