「第35回文化財虫菌害・保存対策研修会」参加報告

 公益財団法人文化財虫害研究所主催の「文化財虫菌害・保存対策研修会」が平成25年6月20日、21日に国立オリンピック記念青少年総合センターで開催されました。受講者は150名ほどで、美術館・博物館・図書館など文化財を所蔵する側の方や、文化財に関する生物被害防除業務に携わる企業の方、保存修復家などがいらっしゃいました。

プログラムは以下の通りです。

6月20日(木)
◆文化財に被害をおよぼす害虫の性質とIPM ―主にクロゴキブリとヤマトゴキブリについて―:環境生物研究会代表 辻 英明氏
文化財の害虫である大型ゴキブリの生態から、なぜ・どのように文化財に近づき被害を与えるのか、駆除などの対策などについて。むやみにやたらに薬剤を使用するとチャバネゴキブリのように抵抗力がついてさらに強い薬剤が必要となるだけでなく、環境汚染の原因となってしまうので、ゴキブリの生態を理解し、その行動パターン・性質を利用して効果的な対策を立てることが重要である。

◆文化財に被害をおよぼすカビについて:NPO法人カビ相談センター理事長 高鳥 浩介氏
微生物の中のカビの特徴や発生原因、文化財の材質別生えやすいカビの種類分け、予防と殺菌方法などについて。
カビ被害は初期段階で発見されにくく、対応が遅れがちになる。またカビは一旦発生すると職員だけでは対処できず、専門業者に依頼することになり、その処理には大変な時間と労力が必要となる。そのため、カビによる被害が起きないように常に予防を心がけなければならない。また、カビはモノの表面上に生え、空気中に飛んでいるホコリの上にも生えているとのことで、その様子の画像も示された。

◆文化財の重要害虫とトラップの利用について:鵬図商事株式会社営業部企画営業課長 足立 雅也氏
IPM活動の一環で行うモニタリングの重要性と使用するトラップの種類や利用方法について。
文化財の素材により被害をおよぼす害虫は異なるため、対象となる害虫をあらかじめ想定して専用のトラップを選別して利用する。虫の同定は『文化財害虫事典』などで調べるとのことで、慣れてくればわかるようになるらしい。

◆文化財収蔵施設における職員と虫菌害防除に携わる者の役割について:九州国立博物館が愚芸部特任研究員 本田 光子氏
虫菌害防除を行う目的、「文化財を守る」ということを念頭に置き、そのために文化財を所蔵する施設職員や虫菌害防除業者などが各自専門性を極めてその使命と役割を果たさなければならない。

6月21日(金)
◆博物館、美術館等におけるLED照明の現在と今後の課題:株式会社灯工舎代表取締役 藤原 工氏
LED照明はまだ発達段階で、「博物館・美術館用」と確立されたものがあるわけではない。そのため、LED照明の特徴と他の光源との違いを理解し、博物館・美術館用照明として満たすべき要件を備えたLEDを選択しなければならない。

◆資料の劣化要因と保存対策:株式会社資料保存器材 島田 要氏
紙資料の劣化要因には環境(温湿度・大気汚染・人による取扱い・災害など)に由来する外部要因と資料自身の問題(紙やインクなど)に由来する内部要因がある。それらの劣化要因から資料を守るための対策の1つとして保存容器に入れて小環境を作るという方法がある。

◆田川市石炭・歴史博物館における虫菌害防除対策事例: 田川市石炭・歴史博物館学芸担当 中川 恭子氏
世界記憶遺産に登録された“山本作兵衛コレクション“の保存管理のため、できることからはじめる日常のIPM活動についての報告

◆社寺における虫菌害防除対策事例: 東北芸術工科大学芸術学部美術史・文化財保存修復学科准教授 米村 祥央氏
山形という東京とは異なる環境(冬が湿潤)の中、社寺という開放系の建物におけるIPM活動とその難しさなどについての報告

―受講して
IPM(総合的有害生物管理)という考え方が広まってきてはいますが、実際行うには専門家だけでなく施設職員の日常的な施設環境の管理・点検が必要となります。人手・費用もそれなりにかかることですので、まず職員の方々がその意義を理解し行動に移すことが大事であると再認識しました。また、温湿度管理などは特に難しい問題ですので、その対策や事例など発表があればぜひ聞きたいと思います。(浅沼)