書写材料の変遷 3

パーチメント
 パーチメントとは、書写材料に適すように、動物の皮を加工したものです。とても丈夫で耐久性に優れていて、環境が整えば千年以上持つ素材です。
動物の生皮をそのままにしておくと、乾燥して硬くなったり腐敗したりしてしまいます。しかし、人間は古代から動物の皮を何らかの処理をして、腐敗しないようにすることで、動物の皮を様々な用途に利用してきました。皮の処理方法には、化学的処理と物理的処理があります。化学的処理とは、皮のタンパク質のコラーゲン線維を植物タンニンなどの鞣剤で化学反応を起こし、構造を不可逆的に変化させる「鞣し」を行うことです。一方、パーチメントの場合は、張力をかけて乾燥させることにより、細胞の並びを変えて腐敗させないようにする物理的処理を行います。「かわ」には「皮」と「革」がありますが、「皮」は鞣していないもので、鞣したものを「革」といいます。パーチメントは羊皮紙ともいいますが、そこで「皮」という字を使っているのも、鞣していないからです。細胞の並びを変えているだけなので、水分が入ると元の状態に戻ろうとする性質があり、湿度が高いとすぐに波打ってしまいます。

 また、羊皮紙と「羊」がついていますが、羊だけでなく、山羊や子牛、鹿などの他の動物の皮も原料となります。
パーチメント(parchment)という名前は、小アジアの都市ペルガモン(Pergamon)に由来します。紀元前2世紀、エジプトがパピルスの輸出をしなくなったため、ペルガモンではその分を他の書写材料でまかなわなければならず、それ以前からも用いられていたパーチメントでその需要を満たすことになり、その製法も発展していきました。そして、丈夫で柔軟性があるパーチメントはその有用性が認められ、徐々に普及していきました。さらに冊子体(現在の本の形)が登場してからは、折り曲げに弱いパピルスよりもパーチメントのほうが使いやすかったため、次第に書写材料の中心はパピルスからパーチメントへと移っていきました。最初のころからパーチメントの冊子体を多用したのはキリスト教徒で、当時の写本が多く残っています。15世紀に紙が書写材料の中心となってからも、パーチメントは18世紀後半まで公文書などで使用され続けます。

<製造法>
① 生皮を流水または水でよく洗う。
② 強アルカリ水(消石灰と水で作る石灰乳)に漬け、毛および網状層を分離しやすいようにする。
③ 専用のナイフで脂肪分や毛を擦り取る。
④ よく水洗いし、皮を木枠に張って、乾燥させる。
⑤ 半月の形をしたナイフで表面を削って、厚さを均等にし、滑らかにする。
⑥ 炭酸カルシウムを表面にまぶし、軽石でこする。
⑦ そのまま乾燥させる。
 出来上がったパーチメントを見てみると、表裏に違いがあります。毛側(毛がついていた面)は少し黄色っぽく、毛穴が見え、肉側は白っぽい色をしています。ただし、中世のヨーロッパの写本などを見ると、両面とも白く、滑らかで、区別がつかないものもあります。
 巻物にする場合は、パピルスはシートを接着剤で貼り合わせますが、パーチメントは糸でつなぎ合せます。冊子体の場合は、色や質の差が目立たないようにしたいため、肉側と肉側、毛側と毛側が向き合うようにシートを重ねて折丁にし(グレゴリーの法則)、本の形に仕立てられました。

<参考文献>
箕輪成男著『パピルスが伝えた文明』出版ニュース、2002年
貴田庄著『西洋の書物工房』芳賀書店、2000年
ホルスト・ブランク著『ギリシア・ローマ時代の書物』朝文社、2007年
羊皮紙工房 http://www.youhishi.com/index.html