書籍(洋装、和装、図書資料、雑誌)、紙資料(文書、地図、図面、ポスター)、紙作品(版画、デッサン)などの保存修復処置および予防的保存処置

同志社大学図書館 徳富文庫「ケルムスコット・プレス」への保存修復処置

【資料の概要】
徳富文庫とは、「徳富蘇峰(1863-1957)旧蔵書の一部と、蘇峰に私淑していた実業家山本二郎氏が蘇峰関係資料を長年収集されていたものからなる。この中には、蘇峰宛の名士書簡として、二葉亭四迷、井上馨、陸羯南、森鴎外、中江兆民、落合直文、尾崎行雄等二十数点がある。また、近代私家版の一つとして有名なウィリアム・モリスのケルムスコット・プレス二十数巻も含まれている。このほかに、トルストイ愛用の杖や晩年のサイン入り写真もある。」
同志社大学図書館特別コレクション(http://www.doshisha.ac.jp/library/collection/index.html)より引用)
また、ケルムスコット・プレスとは、ウィリアム・モリス(1834-96)により設立されたケルムスコット印刷所で1891年から98年にかけて刊行された書物のことである。モリスは1891年にケルムスコット・プレスを設立し、活字のデザインや挿絵・用紙・製本など書物に関するすべての工程において自ら関わり指示し、「理想の書物」を追求した。
(雄松堂HP西洋稀覯書ケルムスコット・プレス刊本カタログ参照)

【対象資料名と製本形態】
①『偶然詩』(くるみ装)、②『モオド一幕劇』(リンプ装)、③『魔法使いの女シドニア』(リンプ装)、④『ジョン・ポールの夢と王の教訓』(リンプ装)、⑤『詩集』(リンプ装)、⑥『シェリィ詩集第1』(リンプ装)、⑦『シェリィ詩集第2』(リンプ装)、⑧『シェリィ詩集第3』(リンプ装)、⑨『不思議の島の水』(リンプ装)、⑩『ユートピア』(リンプ装)、⑪『地上楽園第1』(リンプ装)、⑫『地上楽園第2』(リンプ装)、⑬『地上楽園第3』(リンプ装)、⑭『地上楽園第4』(リンプ装)、⑮『地上楽園第5』(リンプ装)、⑯『地上楽園第6』(リンプ装)、⑰『地上楽園第7』(リンプ装)、⑱『地上楽園第8』(リンプ装)、⑲『恋愛歌集 愛のソネット拾遺詩集』(くるみ装)

【処置前の状態】
1)表紙
環境(特に温湿度変化)の影響を受け、表装材のヴェラムは波打ち・収縮して変形し、一部硬化・ゼラチン化(透明化)している部分も見られる。表装材の波打ちは、本文紙の波打ちに沿って発生している。くるみ装は硬表紙のため、比較的変形が少ない(①、⑲)。表装材は全体的に汚れていて、特に波打っているヴェラムの凸状部分には汚れが目立つ。①のジョイント部は破損している。表紙に取り付けられた留め紐は絹製で耐久性が低く、一部の紐は経年や使用により、破損または脆弱化している。
2)見返し
見返し紙は、同じ環境下においてヴェラムとは異なった動き(伸縮)をし、接着剤も枯れているため、ヴェラムからの浮きや引きつれが一部で生じている。ノド元で破損が見られるものもある(③、⑪、⑬、⑲)。見返し紙は、酸性紙である図書カード入れの影響で、茶色く変色している。見返しに付着物が多数見られるものもある(⑩、⑲)。
3)本文紙
良好だが、全体に波打ちが見られる。本文紙の特に天小口側に多数の付着物が見られるものがある(⑩、⑲)。
4)本の開き
ジョイント部は経年や環境の影響で硬化し、また製本時の背に施された処置のために、本の開閉が阻害されている。それは特にジョイント部のヴェラムの厚みが大きいとその傾向が強い。

 


【処置方針】
①解体せずに表装材ヴェラム全体の変形修正は難しく、また特にリンプ装の場合は表紙のみ波打ちが一時的に軽減されても、本文紙に波打ちは残り、それによって修正状態を維持するが難しい。そこで、周縁部を中心に変形修正を行うこととする。
②ジョイントやノド元の損傷個所は、和紙で補強する。
③硬化したヴェラムにポリエチレングリコール(PEG)とエタノール水溶液を塗布して柔軟性を与え、本の開きの改善を行う。
④損傷・脆弱化している留め紐は付け替える。
⑤ヴェラムを環境変化から保護するための保存容器を作成し、見返しには図書カード入れの酸性物質の移行防止のために中性の間紙(ピュアガード)を挟む。
⑥現時点では良好であるオリジナルの留め紐も使用を重ねると摩耗する恐れがあり、今後は軽く結ぶ程度とし、保存容器に収納して表紙が開くのを抑えることとする。

【主な処置内容】
①刷毛やプラスチック消しゴムにて表紙や見返しのドライクリーニングを行う。見返しや本文紙の付着物はメスや針にて除去した。 

②ジョイント部分の損傷個所には、ヴェラムの下に厚口楮紙を挿入して補強した。

③本の開きの改善のため、表紙のジョイント部分をゴアテックスを使用して時間をかけて加湿し、エタノール水溶液→ポリエチレングリコール(PEG)200の順に塗布後、丸一日そのままの状態にしてヴェラムに浸透させた。この作業をヴェラムの厚み・硬さに応じて、4回~20回繰り返し行った。ヴェラムがより硬い場合にはPEG400も使用した。

④表紙の変形の軽減のために、③と同じように表紙を加湿後、吸取紙に挟んでプレスした。
⑤留め紐が外れているもの、あるいは外れかけているものには、染めた新しい紐に付け替えた。

⑥見返しのノド元が損傷している箇所は、中口楮紙で修理した。
⑦各資料に対して保存容器を製作して収納した。

【処置後の状態】


 


 

 

 


 

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