【作品の概要】
 ご所蔵者様より浮世絵版画38点の保存修復処置のご依頼を受けた。同コレクションは作品の裏面同士を糊付けさせてこれを一丁とし、これらに反故紙からなる表紙をつけて冊子体(四つ目綴じ、紙縒り下綴じあり)とされたもの。作者の内訳は、歌川国芳18点、歌川豊国11点、歌川国貞5点、歌川貞虎1点、歌川芳虎1点、豊原国周1点でその主題のほとんどは、歌舞伎を題材としたものとなっている。平均的な寸法は天地360mm、左右260mm。表紙も含め本紙には墨による書き入れが多数見られる。

【本紙の組成】
[種類]:手漉き和紙
[厚み]:0.13~0.21mm
[風合い]:柔らかい
[切断面]:刃物によって断裁

【損傷/劣化状態】
①製本
 表裏の表紙に用いられている反故紙には中度の破損、欠損、変色、汚損の他、シワ、擦り切れ、染み、フケやももけも生じている。綴じに使用された綴じ糸(麻糸)と下綴じの紙縒りの状態は良好であった。また、綴じ代部分には補強のためと思われる和紙の細片が挟み込まれていた。

②作品
 製本された時点からあまり開かれることなく伝世してきたため、彩色部分の退色はあまりみられない。しかし、全体的に汚損、変色(黄色、茶変色、暗色)、染み、折れ/シワ、脆弱化の他、周縁部の破損、欠損、虫損(主に綴じ代部分)、カビによる染み、ももけも生じている。

【主な処置内容】
①解体
綴じ糸を切断し、下綴じの紙縒りを解いて綴じを解体後、貼り合わせてある本紙を慎重に分離する。
②本紙繊維のももけ(本紙が擦れることで出来た繊維のかたまり)をメスやピンセットで取り除く。
③ドライクリーニング
柔らかい刷毛で表面上の塵や埃を軽く払ってから、練りゴムで軽く押さえるようにして刷毛では取り除けなかった塵や埃をしっかりと取り除く。また、本紙上の付着物の除去を針やメスを用いて行った。

④折れ/シワを伸ばす
超音波加湿器や防水透湿性素材を用いてゆっくりと本紙に湿りを与えて、本紙に生じた折れ/シワを伸ばす。
⑤本紙の繕い
本紙の破損、欠損、虫損に対して色味や厚みの合った手漉き楮紙にて修復を行い、ももけや脆弱化している部分に対しては裏から極薄手漉き楮紙にて補強を行う。

⑥全体のフラットニング
張り手(蛇腹状にした和紙)を本紙の周囲に取り付け、防水性透湿素材で間接的な湿りを全体に与えてから仮張りに貼り込んだ。
⑦保存性と鑑賞性を兼ね備えた透明ポリエステルフィルム付きフォルダに収納

【処置前後の状態】