天然セルロースはその分子の内に多数の水酸基(OH基)を持ち、本来親水性の物質であるのに水には溶けません。これは隣接する分子の水酸基どうしが、水素結合を形成し分子間ミセル間で強く結び付き、そこへ水分子が入ってゆけないためです。そこで水酸基を適当にアルコキシル基などの疎水性のものに置換すると、それがミセルの間隙や内部に固定し、その距離が増大して水酸基間の結合力が低下し、水が内部へ侵入可能となり水に溶けるようになります。ただし、あまり置換度を上げると、今度はアルコキシル基の疎水性が際立ってしまい再び水に溶けなくなります。一般にセルロースエーテルとして市販されているメトローズなども、利用目的から水溶性とするためにそれぞれ各エーテル基が適当な置換度で導入されています。
これらのセルロースエーテルの物質的な特徴としては、(製品により物性はやや異なりますが)
①水に溶けて潤滑性に富んだ粘稠な溶液となり、それは非イオン性(CMCはイオン性ですが)で中性溶液です。
②白色、もしくはやや黄色をおびた微粉末で無味、無臭、無害の物質です。
③接着性、粘結性があり乾燥後は透明で可塑性に富みます。
④物質としての純度が高く、酸・アルカリ・熱に極めて安定でまたそれ自体は微生物にほとんど侵されません。
⑤一般に冷水ほどよく溶け、あるものは(ヒドロキシ・エチルセルロース除く)溶液温度が上がるとゲル化を起こすことがあります。これは冷却により元に戻ります。また有機溶剤などにも水にも可溶というものもあります。
⑥同一製品でもその重合度により種々のグレードができ、粘度‐濃度を目的に応じて選択できます。
以上の特徴から保存、修復への用途、あるいはそのほかの使い方としては、
A.接着剤として部分的修理や見返し貼り、表紙貼りなどに濃度を変えて使用。
B.水による紙の洗浄や水性脱酸後、紙力の低下した資料を適当濃度の溶液でリサイジングし、張りと強さを与える。
C.保水性の良さから、革装本のクリーニングおよび含浸による劣化した革の定着。
D.見返しや表紙、背貼り、背固めなどの剥離の際の保水剤として。
などが考えられます。
A.については接着力がやや弱いという点を除けば、老化や劣化もほとんどなく必要な時には水で剥がすことができます。乾燥後も透明で柔軟性を持ち、使用濃度が適当であれば紙の風合いを損なうことがありません。潤滑性に富んでいるので刷毛さばきや、伸びが良く、紙を置いた後の修正も容易です。またカビなどに対しても、糊その他の天然接着剤に比べて侵されにくい(発生しない訳ではない)のが優れえいる点(海外の修復家がMCにこだわる理由の一つです。)といえます。
B.MCなどが紙の素材のセルロースに近く、しかもより安定な物質であるということが、他の合成高分子や膠などを使うより自然と思えますし、カビ虫害の問題や、必要があれば水で再び洗い流せるという点でも適した材料といえます。


この記事を読んだ方は次の記事も読まれています