1.通史

1)古代
①太古より獣皮は脂を除去し、敷物や鞴(ふいご)に、または毛を除去して革にして履や楯、鞆などに加工していた。
※鞆・・・弓を射る時に左手首の内側に付け、引き放った弓の弦が腕や釧(くしろ)に当たるのを防ぐ道具。

②4世紀頃、百済の工人が渡来して皮を縫製する技術を伝えた。

③4世紀末、高麗より革工が渡来し、大和国山辺郡額田邑(現大和郡山市額田部北町と額田部寺町付近)に住み、革を製造。
※この革工集団を熟皮高麗(かわおしこま)と呼び、熟皮高麗により新技法で大型の牛や馬の製革が始まったと考えられる。
※4世紀の大和時代には、シカ・カモシカ・イノシシ・クマなどの獣皮を貢物として定めていた。

④『倭名類聚抄』・・・平安時代中期(931~938年)に作られた辞書
・皮:和名が加波(かわ)であり、獣の体を被うものを剥ぎ取り毛の付いたままのもの
・革:和名が都久利加波(つくりかわ)であり、毛と脂を除去したもの。韋(なめし)は乎之賀波(おしかわ)といい、毛と脂を除去して柔らかくしたもの。つまり、古代の鞣しは物理的に不要なものを除去し、さらに揉んだり油脂類を塗ったりして耐久性や柔軟性、防水性を付与したもの。

⑤『延喜式』に記載された皮革
・調あるいは副物の品目として皮革類があげられており、宮中で用いられた革製品についても記述がある。
・宮廷では特殊技能を有する品部と雑戸を畿内から集め、典履(てんり。靴履鞍具を縫作)や典革(てんかく。革の染作)のもとで革製品を製作。
・諸国年料雑物として西日本を中心に主に牧牛皮や馬革が産出された。
※馬は皮を革に加工して送付しているが、牛皮はそのまま送付していた。これは、馬皮は鞣し方法が普及していたが、牛皮は鞣しが普及していなかったか、あるいは牛革の利用が少なかったためと考えられる。
※染色した革(紫革、緋革、纈革、画革、白革)は、大宰府の特産で皮革製造技術が発展していた。
※膠は武蔵と上野から貢納されていた。

⑥皮革の利用
・牛皮:クマやイノシシ、シカの皮とともに神事に用いられた。また、牛革や皺文革(銀面がヒキガエルのようにブツブツ状)に製造されて履の材料となる。
・鹿皮:多くの祭祀に使用され、その数量は他の皮をはるかに凌駕していた。
※鹿皮は牛皮などと比べて柔らかく、薄くても細くても物理的強度があるため、一般的に紐などに使用された。
・馬皮:左右馬寮で死んだ馬の皮は、貢納されたものも含めて神祇の種々の祭祀には使用されない。これは武具・馬具製造に重要な材料だったため。

⑦古代のまとめ
・祭祀の供物、儀式や日常生活の用品として利用
・牛革や馬革は履物や馬具、武具などの物理的強度を必要とするものに利用
・鹿革は紐類のように柔軟性を要するものに利用
・熊や虎、豹の毛皮は身分を象徴する敷物などに利用

2)中世
①11世紀初めの京都には、河原者と呼ばれる被差別民がおり、屠畜や皮革加工を行っていた。
※『左経記』長和五年(1016)正月二日の記述から当時死んだ牛の皮を剥ぐ「河原人」がいたとあるのが初出。

②鎌倉時代には、鞣し技術はさらに発展。皮革と膠は武具の製造に不可欠となる。

3)近世
①江戸時代には現代につながる製革技術の基礎が確立された。牛馬の皮を多く使用。

②京都では太鼓や沓など一部を除いて、革細工は基本的に町人身分の仕事であった。
※1723年鹿革製造の白革師から京都の被差別部落で行われていた鹿革製造禁止の訴えがあったが、被差別部落民には細工物の材料としてだけ使うことを条件に鹿革製造を許可。

4)近代
①富国強兵と殖産興業の方針に従い、軍事用品(特に軍靴)の需要に応ずるために洋式の製革法を採用。
→外国人技師の招聘、万国博覧会への積極的参加により技術は著しく向上した。
※なぜ靴なのか?・・・強兵には鉄と革の大量供給が必要となる。製鉄には時間がかかるが、革ならば容易に行うことができるため。
例)製革靴練習所・・・明治二年和歌山市で西洋式の製革事業が始まる。ドイツ人ケンベルを招聘。主に藩士の次男三男が習った。
例)明治初年佐倉藩は士族救済事業として靴授産場(就労や技術習得を援助する施設)を造り、皮革事業を導入。

2.製法
1)油脂鞣し
古くから姫路において革製法があり、延喜式造皮の項の記述に技術的な手法の類似性がみられる。
※姫路革文庫の創始は中世にさかのぼり、江戸時代には播磨の物産として著名であった。
※明治になると、クロムやタンニン鞣しの導入があり、白鞣し革の製法を守る業者は激減した。

2)脳漿鞣し・・・皮タンパクと反応するとはいえず、単に潤滑作用が働くのみと考えられる。日本へは7世紀後半に朝鮮より伝来。
※脳漿・・・脳室系とクモ膜下腔を満たすリンパ液のように無色透明な液体。弱アルカリ性で脳の水分含有量の緩衝と形態保持。

3)熏(ふす)べ革・・・鞣した後の鹿の白革に着色目的で燻染法を施すことを指すが、本来は煙成分に含まれるアルデヒド類の鞣作用を指す。煙の成分で皮革の保存性・耐久性を高める。(延喜式にも燻し技法が示されている。)

この記事を読んだ方は次の記事も読まれています