手書き原稿(梗概)への保存修復処置

資料の概要
 梗概とは、大略、あらまし、あらすじ(『広辞苑』より)のことで、当該資料はジュール・ヴェルヌ著『八十日間世界一周』を明治11年(1878)に日本で初めて翻訳した川島忠之助(1853~1938)がリヨン滞在時に書いた戯曲(フランス演劇)の梗概になります。

資料の状態
 紙縒り(2か所)で綴じてあったようだが、下の紙縒りは既に欠失し、上の紙縒りのみで本文紙14枚が袋とじの状態で綴じられている。上の綴じ付近では本文紙どうしが接着し、表裏からの2~3枚のその周辺では破損や欠損、脆弱化が著しい。また、折れやシワが多くみられるほか、泥のようなものや黒い粉状のもの、虫糞のような付着物がみられる。
依頼者のご希望は、「外観を大きく変えないが、研究のために不安なく扱えるような状態にする。」というものであり、これを踏まえて私どもは以下のような処置方針を立て、処置を施しました。
①状態調査
資料全体の状態調査および使用されているインクや罫線へのスポットテストを行う。
②綴じの解体
接着している本文紙は、可能ならばドライの状態で分離し、難しい場合にはプリザベーションペンシルなどで少しずつ加湿しながら慎重に分離する。
③本文紙の修理
本文紙はかなり薄いので、あまり強すぎない(引き連れを起こさない)極薄の和紙で欠損や破損などの修理を行う。
④フラットニング
強い折れなどを直してから、全体のフラットニングを風合いが損なわれないように強すぎないプレスで行う。
⑤綴じ直し
紙縒りを新しく準備して、綴じ直しを行う。
⑥保存容器の製作
表紙もなく、非常に薄い冊子であるため、保存容器を製作して収納する。

処置工程などの詳細は近日中に私どものHP内で公開する予定です。
また、同資料を元にした研究成果が今年2月に出版されました。
『川島忠之助からの便り』- 明治十年代 横浜銀行リヨン出張所にて- (株式会社皓星社)