作業の安全性のために -資料保存に使用される薬品の毒性-

 書籍の保存修復処置、具体的にはクリーニングや脱酸性化処置等に用いる薬品は、日常的にはほとんど扱われないものが多い。少なくともコンサベーションということを念頭に仕事をしている者が、自分の使用している物質を知らずに使う等ということはないとは思いますが、処置に対する適用性のみに気を取られて、ともするとその他の面-人体に対する有害性や火災の危険性等-が忘れられたり、知っていても漠然とした知識であったりということがないでしょうか?

 ペーパーコンサベーションの分野では、既に使用物質の有害性とその対策等が取り上げられ、それなりの処置、設備等がなされていますが、書籍の保存に関しては従事する専門家が少ないこともあって、使用物質の有害性や危険性に対する認識がはっきりとしていない可能性もあります。そこで、実際に使用しているものやペーパーコンサベーションの基本文献に紹介されている物質の中から、有害なものや危険なものを選び出し簡単にまとめてみました。

 有機溶剤等を中心に取り扱い上の注意について書いてみます。

①一般に有機溶剤の多くは揮発性があり容易に引火するものが多いので、どんな少量を扱う場合でも火気は厳禁です。

②ものによっては蒸気が室内に適当濃度充満すると、電気器具のスイッチのスパーク程度でも引火、爆発する恐れがあるので十分な換気をする。

③容器等には必ず栓をして短時間であっても開放状態のままにしない。保管用の容器は内圧の増加等で栓が外れないようなものにする。また、保管に用いる容器は飲食品の容器もしくは、それと間違うような容器は使わない。

④保管の際には地震等による容器の転倒破壊が起こらないように処置をしておく。

⑤有機溶剤のほとんどが強弱はあるにしても人体に有害であると考えられる。したがって、理想的にはそれらを扱う作業はドラフター(局所排気装置のある隔離された作業空間)内で行うべきであり、やむをえず室内で扱うときには十分な換気をする。

⑥毒性の強いものを扱うときには、たとえ換気をしていても蒸気を吸入する可能性があるので、有効な防護マスクをその仕様に従って用いる。

⑦有機溶剤に触れると、ものによっては皮膚から吸収されたり、かぶれや炎症を起こすものもあるので耐溶剤性の手袋を着ける等して作業する。また、溶剤あるいは脱酸溶液の中には、飛沫が目に入ると危険なものも多いので、作業の際にはプラスチック製の防護用メガネを使用すると良い。

⑧高い頻度でこれらの溶剤を扱う作業を行うときにはドラフター等の局排設備の設置が必要である。

 以上簡単に有害、危険物質を用いた作業での注意を記しましたが、それぞれの性質を知り正しく対処すればむやみに恐れる必要はありません。しかし、“これくらいなら”あるいは“短時間だからいいだろう”というように高を括ることだけは避けるべきでしょう。また少なくともコンサベーションということを考えて仕事をするならば、“何だか分からないが、便利だから使う”というような安易な態度は慎むべきです。