革装本の見返しが茶色く変色するのはなぜか ― 革から紙への成分移行と予防的保存
革装本を開くと、見返しの周囲が折り返された革の形に茶色く変色していることがあります。軽度であれば見返しだけにとどまりますが、進行すると遊び見返しを越え、おもて側ではタイトルページ付近まで変色が及ぶこともあります。このような変色は、表装革の経年劣化や、革に含まれる成分が長い年月をかけて紙へ移行することが関係している可能性が指摘されています。
【考えられる要因】
● 酸の移行(アシッド・マイグレーション)
19世紀以降の西洋革装本には、鞣し工程で硫酸が使用されたものがあります。革に酸性成分が残留している場合、それが長い年月をかけて隣接する紙へ移行し、紙のセルロースの劣化や褐色化に関与している可能性があると考えられています。
● 革に含まれる成分の移行
革には植物タンニンや油脂、染料などさまざまな成分が含まれています。これらは経年や光・酸素などの影響によって変化し、その分解生成物や油分などが紙へ移行することがあります。こうした成分の移行も、見返し周囲に見られる茶変色の一因となっている可能性があります。
実際の変色は、革の種類や製革方法、革に含まれる成分、さらに保管環境(温湿度・光・大気汚染など)が複雑に影響し合って生じると考えられており、単一の原因だけで説明できるものではありません。
【予防策】
一度生じた変色を元の状態に戻すことは容易ではありません。しかし、これ以上の成分移行を抑えるための予防的な対策を講じることは可能です。
比較的簡単で効果的な方法として、見返し効き紙と遊び紙の間に保存用中性紙を間紙として挟む方法があります。例えば、保存用中性紙(例:ピュアガード)を1~2枚程度挟んでおくことで、革から移行してくる酸性成分や着色成分を受け止める「犠牲層(sacrificial layer)」としての効果が期待でき、本文紙にまで至るような汚染可能性を減らすことができます。間紙が経年によって変色してきた場合には、新しいものに交換するとよいでしょう。
保存修復は、損傷・劣化が生じてから行うだけでなく、損傷・劣化を未然に防ぐことも大切な役割の一つです。間紙を用いたシンプルな方法でも、資料の長期保存に役立つ可能性があります。



